運命の人





「双子って言うとすぐ、あれ、言われるけど」
 朝食のトレイにカップを置いて、政夫は苦笑いした。
「他人事だからって面白がるの、どうよ」
「だよな。同情しろとも言わないけどさ」
 合宿所の広いダイニングの向こう側で流れている朝のワイドショーを和夫もち らりと見やってため息をつく。
 これと言ってセンセーショナルなニュースのない朝の常で、番組の後半では 『検証・双子のふしぎ実験』なんて軽い話題になっていた。
「興味本位ってやつだからしかたないけどなあ」
 政夫が「あれ」と言った話題が、テレビの中の双子タレントの思い出話のコメ ントで締めくくられようとしていた。
「双子ゆえに同じ相手を好きになってしまった悲劇、ってやつな」
「で、おまえらも、あるのか?」
 案の定チームメイトたちからそんな声が上がる。
 席を立とうとしていた2人は顔を見合わせて苦笑した。
「あるよ。しかもバリバリで進行中」
「えーっ、ほんとかよ!」
 仲間たちが一気に盛り上がるのに背を向けて、立花兄弟はさっさと逃げること に決めたようだ。
「今も…今もってことか!?」
「そういうこと」
 廊下に出てから、2人はまた顔を見合わせた。
「下手したら一生もんだもんな」
「おー、気が遠くなっちまうよ」
 合宿初日の午前中はチーム練習はなく、各自ウォーミングアップを自由にやっ ておくこと、となっていた。
 準備をしてきていた2人はそのままロッカールームに向かう。
 その途中、渡り廊下に出た所で政夫が足を止めた。緑のグラウンドが何面も合 宿所の向こうに広がっているのを嬉しそうに眺める。
「でも、俺たちの相手は心が広くて、2人ともおんなじように受け入れてくれる んだから、助かるよな」
「そうそう、俺たちのどちらか1人、なんて言わないもんな」
 きらきらと輝くフィールドはいつも隔てなく、自分を愛する者をあるがままに 受け入れてくれるのだから。彼ら2人はもちろんのこと、世界中のどれだけの人 間でも。
「好きになった相手が、サッカーでよかったよ」
 ゆえに決して悲劇になどなりはしない。
 立花兄弟は改めて、そのことに感謝した。

end