謝々!
とある外国の繁華街。
自由時間に翼が一人で出かけてしまったと聞いた岬は急いでその後を追ってき
たのだったが。
「…なあ、さっきの日本人の男の子」
すれ違った若者たちの会話に聞こえた言葉が岬をこわばらせる。
「一人だけで裏道に迷い込んでたけど、大丈夫かな」
「うん、あのへんヤバイ連中がよく観光客を襲うんだよな」
顔色を変えて岬はダッシュした。
「翼くんっ…」
だから、一人で行っちゃだめだって言ってたのに。と思っても遅い。
見当をつけて路地に駆け込む。
ショッピング街のすぐ裏手に薄汚れた建物が並ぶ通りがあった。人通りが急に
途切れて、日頃あまり人の近づかない危険な場所だと勘が知らせる。
「あっ!」
その一角の目につかない建物の陰でいきなり物音が弾けた。瓶の割れる音、ゴ
ミ缶をいくつも倒す派手な音が響き、人の悲鳴や怒号が重なる。
「遅かったか…」
その場に立ち尽くして岬は肩を落とす。
しばらく待っていると向こうからボールをドリブルしながら走ってくる翼の姿
が見えた。こちらに気づいて目を丸くする。
「あっ、岬くん」
「…大丈夫だった?」
その岬の表情を見て翼はちょっと申し訳なさそうにした。
「ええと、あまり大丈夫じゃなかったと思う。…ごめんね」
「一人で危ない所に近づいちゃダメだって言ったのに」
「うん、つい」
実はこれまでも何度も前科のある翼だった。
「囲まれて、金くれとか売り飛ばすぞとか迫ってきたから、こっち来ないでって
言ったんだよ?」
「……」
それで言う通りにしてくれる相手ならこんなことにはならないのだ。
「で、『また』出たんだね?」
ゆっくりと並んで歩きながら翼はぽつぽつと話す。
「そう。いきなり出てきて、そのお兄さんたち一瞬でボロボロに…」
そしてまたあっという間にいなくなったと。岬にはその様子が簡単に想像でき
た。
「現地の皆さんに迷惑をかけないように気をつけないと」
「うん、反省してる」
翼の行く先々でその一団は突然現われては翼に迫ろうとする危険を「暴力的
に」解決してまた一瞬で消えてしまう。
「そうだよ。図に乗らせると後が大変だからね」
これは岬の独り言。
誰とは言わないが、おなじみの面々の顔を一人一人思い浮かべる。
熊のような体格のヤツとか、いつも牙を磨いている色黒のヤツとか、東洋武術
を繰り出すヤツとか雪崩や地吹雪や流氷を操るヤツ、さらに医療機器や薬品を隠
し持っているヤツなんかももしかすると混じっているかもしれない。
宿泊ホテルまでこうして送り届ける役目を毎度のごとく引き受けながら、岬は
少しだけ背後に牽制の視線を投げたのだった。
end
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