ニノウデの世界





「行ってらっしゃい」
「お、おう」
 東邦学生寮の前、自分を見送りにわざわざ姿を見せた若島津にいぶかりつつ も、日向はともあれ出発した。
「若島津〜!」
 そこに走ってきたのは反町だ。
「おまえ、食堂のおばさんにご飯を分けてくれって言ったんだって?」
「ああ」
 若島津の前まで来てびしりと指を突きつける。
「ご飯1升分、まるまる使っちゃったって、おばさん嘆いてたぞ。なんでまたそ んなに?」
「日向さんがデートに持ってく弁当を作ったんだ。握り飯だけだけどな」
「げ、デート?」
 ちょっと遠慮気味に反町が確認すると、若島津は無言でうなづいた。
 その無表情さに少々怯えながら、反町はそれでも疑問を確認する。
「…けど、1升分って、おまえお握りどんだけ作ったんだよ」
「二人分で、各2個」
「はあっ?」
 反町の疑問は深まるばかり。
 さて、一方の日向は元水戸家上屋敷の敷地だった庭園でデート中だった。
 いや、実際は日本サッカー協会に所用で顔を出したついでに、なのだが。
「わ〜い、俺のはうめぼしだ。日向くんのは?」
「……」
 縁台で広げた手作り弁当のお握りを一口かじって――いや、かじろうとして、 日向は撃沈していた。
 一升分のご飯を普通サイズのお握りに圧縮して圧縮して圧縮するとこうなると いう見本。
 日向は相方の腕力を今改めて実感するしかなかった。

end