流れ星





「あ、今、見えた?」
 夜空を一瞬かすめた流れ星。
「願い事…」
 その光が消えた後も翼は空を見上げたままで小さくつぶやく。
「ん?」
 隣に並んだまま、若林はその横顔を見やって問い返した。翼は空から視線を戻 し、若林を見上げる。
「若林くんは何をお願いした?」
「そうだな。おまえのことを」
 大真面目な顔で答えた若林を翼はじとっと睨んだ。
「…若林くんのえっち」
 こらこら。
 と嬉しそうに若林は翼を抱き寄せた。まさにベアー八グである。
 翼は抵抗しない代わりに、若林の腕にすっぽり埋まったままくすくすと笑い出 す。
若林も力を抜くしかなくなった。
「ああ〜、もうおまえにゃ降参だよ」
 本気まであと一歩だったかもしれないのに。
「もっと流れ星見えないかなあ」
 もそもそと若林の肩越しに頭を出して翼はそのまま空を見上げた。
「欲張りだな、おまえは」
「……うん。ごめんね」
 答えまで少し間があって。若林には見えないその表情が少し揺れた。
「おまえは無防備すぎるんだ」
「そうかな」
「それはつまり、俺には脈なしってことなんだよな」
 そして翼からも若林の表情は見えなかった。
「俺だけじゃなく、誰に対しても、な…」
「……」
 翼は答えなかった。若林の腕を離れて地面に立つ。
「帰ろうか、若林くん。もう眠いよ」
 若林はため息をついたが、そんな翼の後をちゃんと追ってきた。
「それ、誘ってんのか?」
「…もう、若林くんのえっち」
「そいつは任せとけ」
 何を威張っているのかはともかく。
 そんな宿命のライバルたちの頭上にまた一つ星が流れた。

end