涙がキラリ☆





「おい、もうすぐ翼が着くぞ。行かないのか?」
 夕暮れの南葛川の土手に1人で座り込んでいる井沢に背後から声がかかった。 「……」
 ちらりとそちらを見たものの、井沢は何も答えずにまた西の空に目を戻す。
「まさか会いたくないなんて言うんじゃないよな、井沢」
「……」
 あくまで返事をしない井沢に苦笑して滝は隣に腰を下ろした。
「3年も経ったんだ、長いよな」
 並んで遠い西の空を見る2人の顔に夕陽の色が反射する。
「変わっちまうのはしかたないさ。誰だって」
「おまえが…!」
 いきなり立ち上がった井沢の拳がぎゅっと握られる。
「おまえが裏切ったんだぞ、他人事みたいに言うな!」
「だから翼にも会いたくないって?」
 滝は困った顔でため息をつく。そして隣で立ち尽くす井沢を見上げた。
「でもあいつは昔のままきっと変わってないぞ。俺たちのほうがどう変わろうと な」
「…会いたくないわけじゃない」
 かすれた声で井沢がつぶやく。
「俺は先に行く。おまえはついてくるな」
「おいおい、それはないぜ、井沢…」
 滝が立ち上がろうとすると井沢はいきなりその場から駆け出した。
「来るな!」
「待てってば、井沢!」
 土手の上の道を、その時向こうからもう1人が近づいて来た。
「おーい、遅いぞ、2人とも。何やってんのさ」
「来生!」
 走るその勢いで井沢は来生にしがみついた。
「な、なに?」
「…きすぎ〜、おまえだけは俺を裏切らないでくれるよな」
 来生の両肩をがっしりと抱えて井沢は頭を垂れた。
「はぁ? またそれかよ」
 ちょっとのけぞりながら来生は途端に嫌そうな顔になる。その背後に滝も追い ついて来た。
「まったく、いつまでもぐちぐちと」
 滝は手を伸ばして井沢のえり首をつかみ、来生から引き剥がす。
「何が裏切りだ。いい加減に覚悟を決めろ」
「俺の隣に立つなー!!」
 ついに井沢は叫んだ。上目遣いで、なんだか涙目になりながら。
「滝なんか、滝なんか、あっと言う間に俺を抜きやがってー!」
「……」
 滝と来生のため息が重なる。翼が久しぶりの帰郷をするというニュースが入っ て以来、何度このワガママな言葉を聞いたことか。
「翼にだけはいいカッコしたいってのはわかるがな…」
「はいはい、聞く耳持ちませんよ!」
 まだ抵抗しようとする井沢を両側から抱えて無情に連行していく。
 高校の3年間で身長差が見る見る変わってしまった修哲トリオ。
「離せー! 嫌だったら嫌だ!」
 待ちわびた翼との再会まであと少し。

end