獅子座の自己診断:喧嘩っ早い




「獅子座の性格、喧嘩っ早いってあるけど――」
 翼が雑誌の星占いページをじっと見ながらつぶやいた。
「俺、喧嘩ってしたことないんだけど」
「そういや俺も」
 反町がすかさず手を挙げた。
「俺って、喧嘩になりそうになる前に回避しまーす」
「逃げるの間違いだろ」
 滝がにやにやと口をはさんだ。
「俺は確かに喧嘩っ早いって自覚あるな。ただし、なかなか俺と喧嘩してくれるよう な相手がなくてさ。せいぜい身内…来生くらいかな。喧嘩の規模が小さ過ぎ」
「俺も喧嘩っ早いはずですよ」
 滝と一緒に佐野が立っていた。前髪の間からちらりと不敵な目が覗く。
「売られたら絶対受けて立ちますもん。でも自分からは仕掛けないかな。面倒臭い し」
「おまえの場合、次藤のヤツが横からさらってくだろ、喧嘩好きだからな」
 日向がぼそりと加わると反町が振り返った。
「佐野をかばってくれるってこと?」
「いえ、次藤さんは俺が喧嘩っ早いのは知ってます。かばうとかじゃなく、単に自分 が喧嘩したいから横取りすんですよ」
「そういう日向くんは? この中では一番喧嘩してるイメージだけど」
 誰もが怖くて口にしなかったことを翼は無邪気に尋ねた。日向はフンと鼻で笑いと ばす。
「俺は喧嘩なんてしねえぜ。今までだって一度もしたことねえな」
「えー、嘘だろ」
 とは声には出さず、滝と佐野が表情だけでうなづき合う。
「もし気に入らねえヤツがいたら一発でドカン!ってやってケリがつくからな。反撃 がねえならそりゃ喧嘩とは言えねえ」
「ただの暴力…」
 日向の手も足も届かないところまで離れた上で反町がぼそぼそつぶやいている。
「確かにー」
 翼が目を丸くした。
「でも日向くんは一発で相手を倒すのも好きだけど、一発で自分が倒されるのも好き だよね。どっちも喧嘩にならないのは同じか」
「何が言いたい、翼…」
 日向ががしっと翼の襟首をつかむと同時に、周囲にいた3人がさささーっと姿を消 した。自分の喧嘩はいいけれど、他人の喧嘩など厄介なだけと割り切っているらし い。しかもこの組み合わせでは。
「ん?」
 翼はしかし、その体勢のままにっこりと笑った。
「日向くんのそういうとこ、好き」
「おまえにだけは言われたくねえよっ!」
 さて、この場合、喧嘩好きなのはどっちだったのでしょうか。


【 end 】