いろは





 合宿所の休日。
 岬は談話室のソファーで一人本を読んでいた。
「岬くん、岬くん!」
 そこへパタパタと足音をたてて駆け込んできたのは翼だった。
 が、岬が本を読んでいるのに気づいて静かに近づき、そーっと隣に座る。
「ね、岬くん、キスしていい?」
 岬が本から顔を上げたので翼は隣から覗き込むようにして言った。
「うん、いいよ?」
 いつものスキンシップの一つだと知っているので岬はあっさりとうなづいた。 翼の顔がぱっと嬉しそうに輝く。岬の肩に手を回して翼は横から顔を近づけた。 にっこりしながら翼のキスを受けた岬だったが、すぐにその表情が動く。キス が、長い。
 岬の目がゆっくりと大きく開かれていった。
「小次郎っ!!」
 やがて外で響く大きな声。
 勢いよく駆けて来た岬が建物から飛び出すが早いか、そこにいた日向の襟首を とったのだ。下から睨み上げる顔が、コワイ。
「おい?」
 怪訝そうな日向に、岬は声をひそめたまま怒鳴りつけたのだった。
「翼くんに、あんなこと教えないのっ!」
「あ、あ〜?」
 日向は口元をゆるめて目だけを空に向けた。
 岬はがくがくとその首を揺すぶる。
「思い出し笑い、しないっ!」
「岬もいいお兄ちゃんだこと」
 あんなこととは何なのか…そこは聞かないのが身のためと知っているチームメ イトたちは、ひたすら耳をふさいでいたのだった。
 

end